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流れる雲に似てⅡ
放浪の画家・村上肥出夫のこと①
 そのサンドイッチマン・クラブの正式な名前は僕は知らない。僕らは職場の名前を言う時「牧さんの処」とか「チャップリンの事務所」とか呼んでいた。事務所といっても銀座裏のバーが入っている小さなビルの屋上にあって、表札さえ出ていない4畳ほどの仮小屋だった。
 ボスは牧さんといい、喜劇王チャーリー・チャップリンの姿をしてプラカードを持って街を歩いていた。沖縄人であったがステッキを携えて歩く姿は映画のチャップリンに本当にそっくりで、銀座のちょっとした有名人であった。
 サンドイッチマン・クラブには老人といえる人から若い人まで色々な人達が所属していた。顎鬚(あごひげ)をたくわえて皆から山羊さんと呼ばれていた老人は戦前まで大地主だったという話だったし、定年までまだ間のある中年の人は大きな制作会社で発明に関係していたということであった。また、ラジオから流れてくる歌謡曲を聞きながら、自分が作った歌だと笑った人も居た・・・。色々と人生を重ねて来た人達が明日の見えない職場の中で、その日の賃金を稼ぐために銀座の雑踏の中に消えて行った。
今と違い若い人達も生活の為にアルバイトをしていた。大学生も居た。音楽家や文学志望の若い人も居た。僕のように画家を志している人もいた。

by enpitsu01 | 2018-01-29 12:38


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